2004年07月28日(水)
1212,パスカル(1) 
 −哲学についてー22

学生時代には、パンセが常に傍らにおいてあった。
当時の不安な気持をいつも和らげてくれた愛読書であった。
現在、読み返してみて当時の哲学書の幾つかが、心の底の根幹をなしていたことに気がついた。
特に人間観は、大きくパンセに影響を受けていた。生き方はニーチェとロマン・ローランである。
当時のささやかな読書が、人生を大きく左右しているとは。

「人間は一本の葦にすぎない。自然の中で一番弱いものだ。
だが、それは考える葦である」パンセの第一節である。
彼は物理学、数学などで成果をあげたが、哲学者としても名を成した。
あまり知られてないが、慢性的な病による苦痛の中で人間とは何か、
生きるとは何かを問い詰めた。 彼の20年の慢性病が哲学を深めていった。

「考える」という一事において、「自分が苦しんでいる」という一事において、
パスカルの「尊厳」のすべてがある。パンセの中の所々に「病の善用を、神に願い祈る」部分が見られる。

パスカルが31歳の時、神秘的な体験した。
1654年11月23日22時30分〜24時30分の間に、パスカルの生涯を一変させる出来事であった。
「火」の夜の出来事である。(恐らく)ヨハネ福音書17,18章を読んでいた時に、白光色の「光」が見えた。
彼の死後に、上着の裏に縫い込んだ『覚書き』が発見された。 その一節が次の文章である。
ーーー
アブラハムの神、イサクの神、ヤコプの神よ。
あなたは哲学者や学者の神にあらず。 感動、歓喜、平安!
ああ、イエス・キリストの父なる神よ。 あなたが私の神となってくださったとは!
キリストの神がわたしの神。 わたしは、あなたを除くこの世と、その一切のものを忘却します。
福音書に示された神こそ実在の神です。 わたしの心は大きく広がります。
裁しき父よ、世はあなたを知りませんでした。 しかし、私はあなたを知ります。
歓喜歓喜歓喜歓喜の涙!
私はあなたから離れ、命の水の源を捨てていましたが、わが神よ、あなたは私を捨てたりなさいませんでした。
どうか私が、これより後、永久にあなたから離れませんように。
永遠の命とは 、まことに、唯一の真の神であるあなたと、あなたが遣わされたイエス・キリストを知ることにあります。
イエス・キリストイエス・キリスト。わたしは彼から離れ、彼を避け、捨てて、彼を十字架につけました。
しかしこれよりのち、私が彼から離れることが永久にありませんように。
福音書に記されたあなたこそ、実在の神です。 ああ、全き心。快い自己放棄。 イエス・キリストよ。
私はあなたとあなたのしもべたちに全く従います。 わたしの地上の試練の一日は永遠の歓喜となりました。
わたしはあなたの御言葉を、とわに忘れません。アーメン。
 ーーー
以上が、その時の文章である。心の奥で深い痛苦を抱え、社会のひずみ、欺瞞に満ちた人間関係の幻滅等が、
この一夜で一挙に溶け去った。そして歓喜にいたった。キリスト教徒でない私が読んでも感動する言葉である。                     
                      ーつづく
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