つれづれに

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 日本の「おくりびと」とアニメの二本が、アカデミー賞の外国語賞を受賞した。
アカデミー賞は米国内の映画の賞で、それ以外の製作の賞だから最高の賞だそうだ。
以前は、外国語としての特別賞〈非公式)で邦画の幾つかが貰ったが、
正式な賞として邦画が受賞したのは初めてという。 癒しをアメリカ人が求めていたためだろう。
その辺のところを分かりやすくレポートした内容が毎日新聞がレポートしていた。
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 記者の目:
日本映画2作、アカデミー受賞    =勝田友巳(東京学芸部)毎日新聞
 
 ◇人間肯定の表現、共感呼ぶ 閉塞した米国に励まし

 米ロサンゼルスで22日授賞式が行われた第81回アカデミー賞で、滝田洋二郎監督の「おくりびと」が外国語映画賞加藤久仁生(くにお)監督の「つみきのいえ」が短編アニメ賞を受賞した。どちらも候補の中では異色作と思っていただけに、そろっての受賞には驚いた。米国の映画人が互選するアカデミー賞は、興行成績とは違った意味で時代の潮流を映し出す。日本の2作品受賞の背景にはハリウッドへの日本の浸透があり、救いを求める米国のあえぎがあったと思う。

 外国語映画賞で本命とされていたのは、イスラエルの「戦場でワルツを」とフランスの「ザ・クラス」だった。「戦場でワルツを」は82年、レバノンで起きたパレスチナ難民の大量虐殺を描く。監督の実体験をアニメーションで表現する手法が斬新で、前哨戦のゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞を受賞した。「ザ・クラス」は中学校の1教室の1年を追いかけ、反抗的な生徒や移民の子供たちを相手に奮闘する教師を描いた。教育は万国共通の難問だ。こちらはカンヌ国際映画祭の最高賞。

 対して「おくりびと」は社会問題に直接言及することを避け、日本人の死生観に基づいた家族の人間ドラマに焦点を当てている。納棺の儀式を手がかりに、死者と残された人々の関係や生の価値を浮き上がらせる。これまた毎日映画コンクール日本映画大賞、モントリオール世界映画祭グランプリなど国内外の賞をさらったように、独創性や完成度の高さでは申し分ない。しかし社会的メッセージ性という点では一歩譲ると思われた。ここ数年、外国語映画賞は社会派作品の受賞が続き、本命2作の方がオスカーに近そうだった。

 一方の短編アニメ賞はアイデア勝負である。笑いで観客を引き込んで、一気に見せる作品が評価されがちだ。他の候補作は、物語はどれもたわいないがユーモアは大盛りで、楽しく見せる仕掛けが秀逸だった。これに対し「つみきのいえ」は、孤独な老人の喪失感と郷愁を、淡々とした物語の中に凝縮してしっとりと描き出す。卓抜だが、ハリウッドの好みに合うかどうか……。

 しかしフタを開けてみれば、両部門のオスカーを射止めたのは日本の作品。特に「おくりびと」の受賞は現地でも相当意外だったらしい。ロサンゼルス・タイムズ紙電子版は「外国語映画賞投票者は軟派な作品を好み、硬派作品は票を食い合った」と素っ気ない分析をしてみせたが、そればかりでもないだろう。映画が社会の窓なら、映画賞もまた時代を映す。

 底流には、ハリウッドでの日本の位置付けの変化がある。ここ数年、「ラスト サムライ」「硫黄島からの手紙」といった、日本を舞台にした映画や日本語のセリフの映画がヒットし、日本人俳優がハリウッドで当たり前に活躍するようになった。ハリウッドで“和”の文化が特別な異国情緒ではなく、ようやく文化的隣人になったとでも言えようか。

 そして米国の閉塞(へいそく)感。9・11テロ以降、ハリウッドには内省的な作品に秀作が多かった。アカデミー賞作品賞を見ても78回の「クラッシュ」、80回の「ノーカントリー」など、おめでたいハッピーエンドとは程遠い。その後、対テロ戦争は泥沼化し、加えて大不況が襲った。昨年米国で記録的な大ヒットとなった「ダークナイト」に至っては、ヒーローのバットマンより悪役ジョーカーに説得力があった。

 そんな中で「おくりびと」も「つみきのいえ」も、社会の欠陥や過ち、困難さを指摘するより、人間性への信頼を素直に表現した。重苦しい空気とは無縁の人間肯定の姿勢が、米映画人たちの心に響いたのではないか。

 その点は、作品賞をはじめ8部門を受賞した「スラムドッグ$ミリオネア」にも一脈通じる。インドの貧民街の惨状を映しながら、クイズ番組で名を上げる少年の成功物語。「おくりびと」と似ても似つかないが、最後には過酷な環境を生き抜いた愛が勝利する。絶望よりも希望を、立ちすくむよりも前へ進もう。根底に救いがあり、希望がある。

 外国語映画賞も短編アニメ賞も、候補作の質は高く、別の機会なら他の作品が受賞しても少しも不思議はない。しかし、殺伐とした時代に米国の共感を呼んだのは、日本から届いた「おくりびと」であり、「つみきのいえ」だった。

 かつてハリウッドの楽観主義は世界中を勇気付けた。今度は日本映画の穏やかさが満身創痍(そうい)の米国を励ましている。今回のアカデミー賞は、国境を超える映画の力を改めて示した一幕ではなかったかと思っている。

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以上だが、
なるほどと、その辺の事情が、垣間見ることが出来る。