棋士の読みの一手は、仮説思考そのものである。 次の文章で、そのことを上手く表現している。
  制限時間のかなで、判断しなくてはならないから、一瞬の仮説思考が必要になる。 
  羽生は、ここで「直感の七割は正しい」といっている。面白い確率だが、彼の天才的な能力だから七割なのだろう。 
  共同体の中で、共同幻想を持って、そのことすら気づいてない我われは、仮説の世界で生きているようなもの。
  棋士の目で経営アドバイスをすれば、良い助言が出来るだろうに。
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 *天才棋士は一瞬で打ち手を絞り込む
  P−32
 プロ棋士羽生善治は稀代の天才棋士であることはいうにおよばないが、
仮にビジネスの世界に進んでいたとしても、かなりの確率で成功を収めたに違いない。
なぜ、そんなことをいうかといえば、それは羽生が仮説思考の達人だからである。
 羽生の棋風はオールラウンドで幅広い戦法を使いこなし、終盤に繰りだす妙手は「羽生マジック」と呼ばれる。
「マジック」の使い手ということになるが、こちらも妙手の秘密について著書「決断カ」で言及している。  
 羽生は将棋で大事なのは決断力だという。すなわち意思決定だ。
決断にはリスクを伴うが、それでも「あとはなるようになれ」という気持ちで指すのだという。
そのときの意思決定を支えているのが仮説思考である。  
 将棋には、ひとつの局面に八○通りくらいの指し手の可能性があるが、その八○をひとつひとつ、
つぶさに検証するのではなく、まず大部分を捨ててしまう。八○のうちの七七、七八については、これまでの経験から、
考える必要がないと瞬時に判断し、そして、「これがよさそうだ」思える二、三手に候補手を絞る。
 これはまさに仮説思考だ。八〇のうちから、よさそな三つの答えを出す。そして、その三つについて
頭の中に描いた将棋盤の中で駒を動かして、検証する。大胆な仮説を立てて、「これでよいのではないか」と指しているのだ。
 羽生は「直感の七割は正しい」ともいっている。直感は、それまでの対局の経験の積み重ねから、
「こうういうケースの場合はこう対応したほうがいい」という無意識の流れに沿って浮かび上がってくるものだと思う、
ど羽生はいう。 こんなこともいっている。
 「判断のための情報が増えるほど正しい決断ができるようになるかというと、必ずしもそうはいかない。
私はそこに将棋のおもしろさのひとつがあると思っているが、経験によって考える材料が増えると、逆に、迷ったり、心配したり、
怖いという気持ちが働き、思考の迷路にはまってしまう。将棋にかぎらず、考える力というのはそういうものだろう」
 将棋の対局の軽験をビジネスの経験に置き換えても同じことがいえる。ビジネスにおいても、問題の原因と解決策について、
あらゆる可能性を考えるよりも最初に焦点を絞って飯説を立てることが大事というのは、これまで述べてきたとおりであり、
それは、経験に裏打ちされた直感力、勘によるものだ。
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 羽生棋士の話より、多くの仮説から瞬時に一つを選ぶ‘決断’の重要性を教えられる。
 孫子の兵法で「巧遅より拙速」というが、そのためには高度の経験の蓄積を必要とする。 何事も同じである。 

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