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 「金融偽装」ー米国発金融テクニックの崩壊 伊藤博敏著 

  以前にサブプライム・ローンを取り上げたNHKの特集で、ローンのセールスマンの
  インタビューをしていた。 図書館で見つけた、この著書の以下の部分と、ほぼ同じ内容だった。
  このようにして、世界中にバラマカレテいったのである。彼らは不良債権とは思ってもいなかったようだ。
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P−18
販売プロセスは、綿密に仕組まれた詐欺のようなものである。しかも米国の住宅ローンビジネスは
分業化しているから責任者不在で、詐欺を働いていても、誰も罪の意識を感じなくてすむ。
例えば、住宅ローンを組む際に、購入者が接するのは住宅ローンブローカーである。
こうしたブローカーは歩合でセールスを雇い、複数の住宅ローン会社の商品を斡旋、
セールスにはローン残高のー%を報酬として支払う。それだけにセールスは必死だ。
審査が緩いのをいいことに、自己申告で収入と仕事を記載させ、借り手に不利な重要事項は教えず、
最初の金利は安くして支払い可能なローンと思わせて売りまくった。
サブプライムローンが好調な時には、年収100万ドルのセールスがざらにいたという。
こうして、最初の2年は金利が6%で残り認年が十数%といった無茶なローンを組ませた住宅ローン会社は証券化
「貸し手責任」から解放され、証券化した金融機関は格付け会社や債券保証会社の信用供与で責任を逃れる。
この「負の連鎖」の特徴は、誰にも責任が及ばないことだった。 この実体経済を揺るがす金融商品は、
住宅ブームを演出したいという金融当局の思惑によって生まれていた。
そこには、「マエストロ(名指揮者)」とまで呼ばれて尊敬を集めた米国FRB(連邦準備制度理事会)
アラン・グリーンスパン前議長もいたという。
P−24
世界経済は旺盛な消費意欲に支えられた米国が、世界中から「モノ」を買うことで成り立ってきた。
米国に積み上がる貿易赤字は7652億ドル(06年)にも達したが、基軸通貨国である米国はドルを刷りまくって
支払いに回し、最大輸出国の中国や日本は蓄えられたドルで米国債を買って、この歪んだシステムを支えた。
こうしてバラまかれたドルは投機資金となって世界を駆け巡り、各国のマネーゲームを加速させたが、
だが、資格のない者にまでローンを組ませ、無理やり販売するのは禁じ手だろう。
収入や仕事が少ない黒人やヒスパニックなどに住宅を与えるのは、本来、福祉の仕事である。
それを証券化してローンを飛ばしながら、世界各国に委ねた。「金融犯罪」であるのは前述の通りだが、
この米国の所業は米国の借金で世界経済を回すシステムが限界にきていることを意味する。
世界最強の米軍と世界一の米国経済に支えられて、ドルが誇りある基軸通貨だったのは、
85年9月の「プラザ合意」の頃までだろう。ニューヨークのプラザホテルで開かれた5ヵ国蔵相会議で
ドル高是正が話し合われ、各国はドル売りの協調介入に乗り出した。
日本で「プラザ合意」は、これを機に起きた円高不況を乗り切るために金融緩和が実施され、
過剰流動性のなかでバブル経済が幕を開けた節目として記憶されているが、米国に目を転ずれば、
製造業などの基幹産業が日本などに追い上げられて幾争力を失い、金融を国家戦略の柱に据えた時と重なる。
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  以上だが、僅か一年ほど前まで、我が世の春を味わっていた米国が、毒入り饅頭(サブプライム・ローン)の
  ためノタウチまわっている姿は、哀れといえば哀れである。しかし、そのツケは日本に回ってくるのだから、
  他人事ではないのである。

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