2007年07月19日(木)
2298, とどまりたまへ旅人よ

  わきめをふらで急ぎ行く  君の行衛(ゆくえ)はいづこぞや
  琴花酒(ことはなさけ)のあるものを  とどまりたまへ旅人よ
 ーー
藤村の、この言葉を若いときの自分を振り返って、投げかけてやりたい言葉である。
「わきめをふらで」何を目指していたというのか?‘お前、何を焦っているのか、もっと今・そこをみたら!’と。
時は戻らない、しかし、しかし!・・である。それが青春なのだろう。ただ、精一杯生きればよい!ということではない。
といって、精一杯生きなければならない時節もある。誠実に生きることだ、自分自身に。そして、その時、そのことに。
しかし、とどまっていては駄目な時もある。 わきめをふらないで歩む時も! 
  まっすぐに、歩かなければならない時もある。 とどまることも、必要ならとどまることだ、琴花酒とともに。
楽しんだら、酔いがさめたら、立ち去ることだ、それが人生だから。
  
  ーー
 島崎藤村 「若菜集」ー『酔歌』より
 
旅と旅との君や我
君と我とのなかなれば    
酔ふて袂の歌草を 
醒めての君に見せばやな
               
若き命も過ぎぬ間に
楽しき春は老いやすし
誰が身にもてる宝ぞや
君くれなゐのかほばせは
 
君がまなこに涙あり           
君が眉には憂愁あり
堅く結べるその口に
それ声も無きなげきあり
 
名もなき道を説くなかれ
名もなき旅を行くなかれ
甲斐なきことをなげくより     
来りて美き酒に泣け
 
光もあらぬ春の日の
独りさみしきものぐるひ
悲しき味の世の智恵に
老いにけらしな旅人よ
         
心の春の燭火に
若き命を照らし見よ
さくまを待たで花散らば
哀しからずや君が身は
              
わきめもふらで急ぎ行く
君の行衛はいづこぞや
琴花酒のあるものを
とゞまりたまへ旅人よ

ーーー
最近、こういう歌に惹かれるようになってきた。 振り返るようになったからである、人生を! 
少なくとも、人生に大きな悔いが無かったことが、すくいである。

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