つれづれに
オバマの3点列挙法
牧太郎の大きな声では言えないが…:
中学時代、弁論部に所属していた。日大一中は当時、勉強しないやつばかりだったが、
クラブ活動は盛んで卓球、柔道、野球、ブラスバンドは全国トップクラス。弁論もずば抜けていた。
授業が終わると、屋上に上って発声練習。それが終わると教えられた模範弁論を朗々と弁ずる。
雄弁は人格なりと尾崎行雄先生は言っております--模範弁論はこう始まる。
尾崎行雄(咢堂)は、明治、大正、昭和を駆け抜けた政治家。「憲政の神様」と言われた。
そして模範論文は「第一に熱誠、第二に熱誠、第三に熱誠であります」で終わる。
熱誠には「熱声」という意味も込められていたが、50年たった今でも、この名文句はハッキリ覚えている。
弁論は品格と熱意と巧みな修辞技法。例えば「第一に熱誠、第二に……」のくだりはいわゆる3点列挙法。
英国のブレア前首相が「教育、教育、そして教育だ!」と話した、あの技法だ。
こんなテクニックも覚え、3年の秋、関東中学弁論大会に出場したが、優勝したのは後輩の1年生。
「おれには向いていない」とさっさと退部した。 先ごろ、英国の高級紙インディペンデントが
「オバマは演説の大部分を自分で書く」と報じた。
「オバマには27歳の天才ライターをはじめとする3人のスピーチライターがついているが、
オバマは演説の大部分を自分で書くのが好きだ」。そういえば、オバマは対照法、(語句の頭の音をそろえる)
頭韻法、反復法、比喩(ひゆ)法を巧みに駆使する。3点列挙法は得意中の得意。
08年11月4日のオバマの勝利宣言は初めの方の三つの段落をすべて「It’s the answer」で始めた。
この演説で彼が訴えたのは「今夜が答えです。答えを出したのは若者、老人、裕福な人、貧しい人、民主党支持者、共和党支持者、
アフリカ系、白人……同性愛者、異性愛者、障害者、健常者。(すべてのアメリカ人が出した)答えはchange!」。
人々は熱狂した。シンプルな言葉を並べる3点列挙法。「棒読み」して、難しい言葉を誤読して、
揚げ句の果て「大事なことなので事務当局が……」と答える某国の政治家とは大違いだ。 第一に熱誠、第二に熱誠、第三に熱誠。
オバマのように自分の言葉に「熱と誠」がなければ人は動かない。
20日(日本時間21日)の就任式。黒人初の大統領はどんな言葉で最大のテーマ「自由の新たな誕生」を訴えるのだろうか?
(専門編集委員) 毎日新聞 2009年1月20日 東京夕刊
ーーー
他のブログにも以下の通りの内容があった。
~~
オバマ勝利演説分析:3点列挙法
2009 年 1 月 19 日
オバマ氏の演説の本が売れています。
A.なぜ、ここまで人を引きつけるのか、少なくともテクニックの面で知りたい人たちがいます。
B.一般の人に感動を与える、思想的なものは何なのか知りたい人たちがいます。
C.あるいは、人が感じている感動を自分も味わいたい人たちがいます。
以前に、「エンパシー(empathy: 共感)」にポイントを置いて、思想的、論理構成的なデンタツに
ついてお伝えしました。これは、Bに関連するものです。
今回は、一般に伝えられている、いくつかのテクニックについてお伝えします。日本のマスコミでは、「オバマ氏の演説は上手」と伝え、また、「どこが上手なのか」知りたい人たちが多くいますので、その点について少し議論したいと思います。
そのうちの一つは、「3点列挙法」と呼ばれるものです。頭の中に残っている余韻に共鳴させる方法です。
これはベートーベンの運命のテーマである「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」と同じです。
強いインパクトをもったフレーズを繰り返すのです。
そして、それが真実のもの、現実のものである迫力を作りだします。
私は「オバマ氏は単にテクニックのレベルが高い」ということをここでお伝えしたいのではありません。
この説明をとおして、オバマ氏は、テクニックを最大限活かすように、考え抜いていることがわかることをお伝えしたいのです。
営業のトークでも、政治家の演説でも、宣教師の説教でも、
一番大切なものは、人の心にどれだけ響かせられるか、ということです。
すごい、ということを伝えるのに、「すごい」と最初から連呼する方法もあるでしょう。
でも、すごいとは思っていない人にはあまり通用しません。響きません。
さて、シカゴでのオバマ氏の勝利演説の最初は、ネガティブとポジティブの混合した表現から入ります。
Hello, Chicago!
If there is anyone out there who still doubts that America is a place where
all things are possible;
who still wonders if the dream of our Founders is alive in our time;
who still questions the power of our democracy, tonight is your answer.
シカゴの皆さん!
もし、(今ここに)まだアメリカがなんでもできる、ということをまだ疑っている人がいるなら・・・、
また、私たちの建国者たちの夢が生き続けていることを疑っている人がいるならば・・・、
そして私たちの民主主義について疑問を挟んでいる人がいるならば・・・今夜がその答えです。
最初から、このように3回も疑いについて繰り返しています(彼の疑いへの疑いです!)。
そして「my answer」ではなく「your answer」なのがポイントです。しばらく後でそれが分かります。
注:doubt(ダウト:うそだろうと思って疑う)、question(クエスチョン:本当かどうか信じられず疑う)
最初の部分を打ち砕くために、それから後の3点列挙法を使用します。
It’s the answer told by …
It’s the answer spoken by …
It’s the answer that led those who’ve been told for …
「なぜならば」と畳み込むように「It’s the answer」を連発します。
まず、最初の「It’s the answer」フレーズを見てみましょう。
It’s the answer told by lines that streched around schools and churches
in numbers this nation has never seen;
by people who waited three hours and four hours, many for the first time in their lives,
because they believied that this time must be different; that their voices could be that difference.
学校、教会の周囲にどれなに長い列ができましたか?こんなことこれまであったでしょうか?ほとんどの人にとって、3時間も4時間も投票のために待ち続たことなど初めてだったのではないでしょうか。
どうして、こんなことが起こったのでしょうか。今度は違う。今度は自分たちの声が届くと考えたからではないですか? そう、これが1つの答えなのです!
(順番を変えて意訳してみました。)
このようにアメリカの可能性について疑いを持っていることに対する否定を、オバマ氏ではなく、
彼の可能性にかけ、熱狂的に支持する人たちの行動という事実を伝えることによって行います。
勝利演説でありながら、「私たちは勝った」とか「自分は勝った」とは言わず、
間接的に投票者を称えることで、否定的な意見に対し強烈な攻撃を行います。
しかも、それを三連発するわけですか、ひとたまりもありません。
上のフレーズはその三連発のうちの一発です。
次のフレーズに入ってみましょう。
It’s the answer spken by young and old, rich and poor, Democrat and Republican, black,
white, Hispanic, Asian, Native American, gay, straight, disabled and not disabled ?
Americans who sent a message to the world that we have never been just a collection of individuals
or a collection of red states and blue states. We are, and always will be, the United States of America.
若者も老人も、金持ちも貧乏人も、民主党支持者も共和党支持者も、黒人も白人もヒスパニックもアジア人もアメリカ先住民も、同性愛者も非同性愛者も障害者も健常者も。皆が、赤い州(共和党)、青い州(民主党)が混ざった個人の集まりというのではなく、「アメリカ人」として、世界へメッセージを伝えたのです。私たちは、現在、そして未来も「アメリカ合衆国」なのです。
そう、これも1つの答えなのです!
時代的な広がり、多様性をすべて出し、すべて認め、すべての力を集める主張をすることで、
エネルギーを集めてきたオバマ氏の思想を端的に表すフレーズだと思います。
力を集めるために、敵対するのではなく、二分法を提示するのではなく、「加える」のです。
日本では「チェンジ(変革)」ばかりに脚光があたり、「人々は変革を求めた」と伝えられていますが、
オバマ氏の手法の特徴は、変化より、過去と現在と未来の統合であり、分離や分割や対立では
ないのです。
英語で「chnage」と言うと、私には「着替える」という意味が一番目に上がってきます。
これは自動詞です。自ら行動し、自ら変化するものです。一般的には、他動詞であり、
「他を変える」という意味に考えられがちですが、私は「変わろう!」
と言っているように感じられます。
リンカーンやケネディーをなぜ持ち出すのでしょうか?
彼が、単に真似したいからではありません。
皆の心にある希望を振動(=共感、共鳴)させているのです。
人にアピールするときは、相手の心の響くところを響かせるのが一番です。
「そうだ」と思ってもらえるのが一番です。
ちょうど、柔道で、相手の力を使って技をかけるのに似ていると思います。
でも、もう一度申し上げます。
オバマ氏は考え抜いてテクニックを駆使して伝えているのです。
決して、ブッシュ大統領の演説のように「我々側か、それともテロリスト側か」
のような単純で浅い思考ではないのです。
もちろん、「I」を極力排除する、謙譲の美も強く意識していると思わざるを得ません。
しかし、それでもアメリカ人に強烈にアピールするのです。
いえ、世界中に。
(3点列挙法の3番目については、次の機会とします)
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牧太郎の大きな声では言えないが…:
中学時代、弁論部に所属していた。日大一中は当時、勉強しないやつばかりだったが、
クラブ活動は盛んで卓球、柔道、野球、ブラスバンドは全国トップクラス。弁論もずば抜けていた。
授業が終わると、屋上に上って発声練習。それが終わると教えられた模範弁論を朗々と弁ずる。
雄弁は人格なりと尾崎行雄先生は言っております--模範弁論はこう始まる。
尾崎行雄(咢堂)は、明治、大正、昭和を駆け抜けた政治家。「憲政の神様」と言われた。
そして模範論文は「第一に熱誠、第二に熱誠、第三に熱誠であります」で終わる。
熱誠には「熱声」という意味も込められていたが、50年たった今でも、この名文句はハッキリ覚えている。
弁論は品格と熱意と巧みな修辞技法。例えば「第一に熱誠、第二に……」のくだりはいわゆる3点列挙法。
英国のブレア前首相が「教育、教育、そして教育だ!」と話した、あの技法だ。
こんなテクニックも覚え、3年の秋、関東中学弁論大会に出場したが、優勝したのは後輩の1年生。
「おれには向いていない」とさっさと退部した。 先ごろ、英国の高級紙インディペンデントが
「オバマは演説の大部分を自分で書く」と報じた。
「オバマには27歳の天才ライターをはじめとする3人のスピーチライターがついているが、
オバマは演説の大部分を自分で書くのが好きだ」。そういえば、オバマは対照法、(語句の頭の音をそろえる)
頭韻法、反復法、比喩(ひゆ)法を巧みに駆使する。3点列挙法は得意中の得意。
08年11月4日のオバマの勝利宣言は初めの方の三つの段落をすべて「It’s the answer」で始めた。
この演説で彼が訴えたのは「今夜が答えです。答えを出したのは若者、老人、裕福な人、貧しい人、民主党支持者、共和党支持者、
アフリカ系、白人……同性愛者、異性愛者、障害者、健常者。(すべてのアメリカ人が出した)答えはchange!」。
人々は熱狂した。シンプルな言葉を並べる3点列挙法。「棒読み」して、難しい言葉を誤読して、
揚げ句の果て「大事なことなので事務当局が……」と答える某国の政治家とは大違いだ。 第一に熱誠、第二に熱誠、第三に熱誠。
オバマのように自分の言葉に「熱と誠」がなければ人は動かない。
20日(日本時間21日)の就任式。黒人初の大統領はどんな言葉で最大のテーマ「自由の新たな誕生」を訴えるのだろうか?
(専門編集委員) 毎日新聞 2009年1月20日 東京夕刊
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他のブログにも以下の通りの内容があった。
~~
オバマ勝利演説分析:3点列挙法
2009 年 1 月 19 日
オバマ氏の演説の本が売れています。
A.なぜ、ここまで人を引きつけるのか、少なくともテクニックの面で知りたい人たちがいます。
B.一般の人に感動を与える、思想的なものは何なのか知りたい人たちがいます。
C.あるいは、人が感じている感動を自分も味わいたい人たちがいます。
以前に、「エンパシー(empathy: 共感)」にポイントを置いて、思想的、論理構成的なデンタツに
ついてお伝えしました。これは、Bに関連するものです。
今回は、一般に伝えられている、いくつかのテクニックについてお伝えします。日本のマスコミでは、「オバマ氏の演説は上手」と伝え、また、「どこが上手なのか」知りたい人たちが多くいますので、その点について少し議論したいと思います。
そのうちの一つは、「3点列挙法」と呼ばれるものです。頭の中に残っている余韻に共鳴させる方法です。
これはベートーベンの運命のテーマである「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」と同じです。
強いインパクトをもったフレーズを繰り返すのです。
そして、それが真実のもの、現実のものである迫力を作りだします。
私は「オバマ氏は単にテクニックのレベルが高い」ということをここでお伝えしたいのではありません。
この説明をとおして、オバマ氏は、テクニックを最大限活かすように、考え抜いていることがわかることをお伝えしたいのです。
営業のトークでも、政治家の演説でも、宣教師の説教でも、
一番大切なものは、人の心にどれだけ響かせられるか、ということです。
すごい、ということを伝えるのに、「すごい」と最初から連呼する方法もあるでしょう。
でも、すごいとは思っていない人にはあまり通用しません。響きません。
さて、シカゴでのオバマ氏の勝利演説の最初は、ネガティブとポジティブの混合した表現から入ります。
Hello, Chicago!
If there is anyone out there who still doubts that America is a place where
all things are possible;
who still wonders if the dream of our Founders is alive in our time;
who still questions the power of our democracy, tonight is your answer.
シカゴの皆さん!
もし、(今ここに)まだアメリカがなんでもできる、ということをまだ疑っている人がいるなら・・・、
また、私たちの建国者たちの夢が生き続けていることを疑っている人がいるならば・・・、
そして私たちの民主主義について疑問を挟んでいる人がいるならば・・・今夜がその答えです。
最初から、このように3回も疑いについて繰り返しています(彼の疑いへの疑いです!)。
そして「my answer」ではなく「your answer」なのがポイントです。しばらく後でそれが分かります。
注:doubt(ダウト:うそだろうと思って疑う)、question(クエスチョン:本当かどうか信じられず疑う)
最初の部分を打ち砕くために、それから後の3点列挙法を使用します。
It’s the answer told by …
It’s the answer spoken by …
It’s the answer that led those who’ve been told for …
「なぜならば」と畳み込むように「It’s the answer」を連発します。
まず、最初の「It’s the answer」フレーズを見てみましょう。
It’s the answer told by lines that streched around schools and churches
in numbers this nation has never seen;
by people who waited three hours and four hours, many for the first time in their lives,
because they believied that this time must be different; that their voices could be that difference.
学校、教会の周囲にどれなに長い列ができましたか?こんなことこれまであったでしょうか?ほとんどの人にとって、3時間も4時間も投票のために待ち続たことなど初めてだったのではないでしょうか。
どうして、こんなことが起こったのでしょうか。今度は違う。今度は自分たちの声が届くと考えたからではないですか? そう、これが1つの答えなのです!
(順番を変えて意訳してみました。)
このようにアメリカの可能性について疑いを持っていることに対する否定を、オバマ氏ではなく、
彼の可能性にかけ、熱狂的に支持する人たちの行動という事実を伝えることによって行います。
勝利演説でありながら、「私たちは勝った」とか「自分は勝った」とは言わず、
間接的に投票者を称えることで、否定的な意見に対し強烈な攻撃を行います。
しかも、それを三連発するわけですか、ひとたまりもありません。
上のフレーズはその三連発のうちの一発です。
次のフレーズに入ってみましょう。
It’s the answer spken by young and old, rich and poor, Democrat and Republican, black,
white, Hispanic, Asian, Native American, gay, straight, disabled and not disabled ?
Americans who sent a message to the world that we have never been just a collection of individuals
or a collection of red states and blue states. We are, and always will be, the United States of America.
若者も老人も、金持ちも貧乏人も、民主党支持者も共和党支持者も、黒人も白人もヒスパニックもアジア人もアメリカ先住民も、同性愛者も非同性愛者も障害者も健常者も。皆が、赤い州(共和党)、青い州(民主党)が混ざった個人の集まりというのではなく、「アメリカ人」として、世界へメッセージを伝えたのです。私たちは、現在、そして未来も「アメリカ合衆国」なのです。
そう、これも1つの答えなのです!
時代的な広がり、多様性をすべて出し、すべて認め、すべての力を集める主張をすることで、
エネルギーを集めてきたオバマ氏の思想を端的に表すフレーズだと思います。
力を集めるために、敵対するのではなく、二分法を提示するのではなく、「加える」のです。
日本では「チェンジ(変革)」ばかりに脚光があたり、「人々は変革を求めた」と伝えられていますが、
オバマ氏の手法の特徴は、変化より、過去と現在と未来の統合であり、分離や分割や対立では
ないのです。
英語で「chnage」と言うと、私には「着替える」という意味が一番目に上がってきます。
これは自動詞です。自ら行動し、自ら変化するものです。一般的には、他動詞であり、
「他を変える」という意味に考えられがちですが、私は「変わろう!」
と言っているように感じられます。
リンカーンやケネディーをなぜ持ち出すのでしょうか?
彼が、単に真似したいからではありません。
皆の心にある希望を振動(=共感、共鳴)させているのです。
人にアピールするときは、相手の心の響くところを響かせるのが一番です。
「そうだ」と思ってもらえるのが一番です。
ちょうど、柔道で、相手の力を使って技をかけるのに似ていると思います。
でも、もう一度申し上げます。
オバマ氏は考え抜いてテクニックを駆使して伝えているのです。
決して、ブッシュ大統領の演説のように「我々側か、それともテロリスト側か」
のような単純で浅い思考ではないのです。
もちろん、「I」を極力排除する、謙譲の美も強く意識していると思わざるを得ません。
しかし、それでもアメリカ人に強烈にアピールするのです。
いえ、世界中に。
(3点列挙法の3番目については、次の機会とします)
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