2005年10月15日(土)
1656, 吹き来る風が私に云う

 帰 郷     中原中也

  柱も庭も乾いてゐる
   今日は好い天気だ
       縁の下では蜘蛛の巣が
心細そうに揺れている
  山では枯木も息を吐く
    あゝ今日は好い天気だ
       路傍(ばた)の草影が
       あどけない愁みをする
  これが私の故里(ふるさと)だ
    さやかに風も吹いてゐる
       心置きなく泣かれよと
       年増婦(としま)の低い声もする
  あゝおまへはなにをして来たのだと・・・・・
  吹き来る風が私に云ふ

生まれ故郷に帰った中也が、自分に向かってつくった歌である。
何か万人の心の声といってよいだろう! ほんとうに、オイお前なにをして来たのか?
自分の人生を生きてきたというのか? これでよかったのか?
だれもが、この気持ちを持っているだろう。 私など、何回思ったことだろう。
そして、次の言葉で、その言葉を打ち消す。 ー仕方がないじゃないか、精一杯やったじゃないか。
これしかできないのも自分。 まあ、いいや。 と。中原中也の詩は、悲しい。 しかし、悲しみを慰めてくれる。

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