ー 読書日記
 進化生物学者長谷川真理子との対談が面白い。
ネアンデルタール人と、現生人類が重なってた時期があるが、何故に 現生人類が生き残ったのか?
脳の大きさよりコネクションが違っていて、そのことが多くの道具を使うことを促して生き延びたこと、
言語能力が格段と上だったこと、更に病気に対する抵抗力の差があったという。
そして「おばあさん」の誕生が現生人類の特徴という。 それまでの色いろな人類のメスは排卵が終わると
直ぐに死んだ。 しかし現生人類は生き延び、お産のノウハウを娘に伝授したので、人口が増えたという。
人骨から「おばあさん」の骨が多く発見されたことから分かったという。 面白い節である。
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ーおばあさんの誕生ー 長谷川真理子×松井孝典

  *おばあさんの不思議

長谷川: いまある限りの現生人類の骨から年齢を測ると、おばあさんの骨が含まれているから、
 長生きしたのだと思います。
松井: それは現生人類が繁栄するという意味で、非常に本質的な点ですね。
 なぜそうなのかについて何かアイデアはあるのですか。
長谷川: 「グランドマザー仮説」というのがありまして、祖母の知恵が、娘が母親になるときの孫の
 生存率を上げたのではないかと言っています。
松井: それはそう思いますね。出産の経験がまったく蓄積されないで単なる生物として初めて出産を経験するのと、
 出産とはこういうものだということをあらかじめ意識として持っているのとではすごく違いますよね。
長谷川: 全然違いますね。
松井: それで人口が増えることに加えて、寿命も長くなるわけで、環境には二重の負荷がかかる。
長谷川: そうですね。でも流行病とかが時々ありますから、長いこと人間の人口はそんなに増えませんでした。
 だけどまず一万年前に増えて、それから産業革命から増えて・・。でもそれから豊かになると出生率が減るでしょう。
 進化的に生物として考えると、 自らの繁殖率を減らそうとする生き物はいないわけです。
 豊かになるということは条件がよくなるわけで、条件がよくなると普通はもっと産むので、
 だから人間がどうして豊かな暮らしになればなるほど持ちたい子供の数が減るのかなと。
松井: おばあさんが存在するという不思議と、もう一つは豊かさがあるところに達すると産まなくなるという不思議と。
長谷川: 全世界的にそうです。それがどうしてそういう心理状態になるのか。
松井: やはり出産が大変じゃないのかな。本当は産みたくないんじゃないのかな。
長谷川: それもあるかもしれませんが、進化生物学的に考えれば、そんな心理を持つこと自体が 不思議なことですから、
いろいろモデルをたてて研究している人がいます。そこから見えてきたのは、べつにこういう先進国だけではなく、
牧畜民の社会とか、農耕社会とか、少しでも富の蓄積ができたあとには、 子供だけではなくてー子供も富と数えてー
持っている富全体を最大化しようとするみたいなのです。・・・・・
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 (−対談を終えて) 松井孝典
これまでの人間論には、生物学的人間論と哲学的人間論があった。
今回は生物学的人間論とはいかなるものか、ということで長谷川さんと対談した。
現生人類の起源には、多地域進化説と出アフリカ説とがあり、後者が有力になりつつある。
現生人類はなぜアフリカから拡散したのか?あるいは数万年前、同じ地域に存在した
ネアンデルタール人が絶滅し、ホモ・サピエンスが繁栄したのはなぜか?現生人類は
なぜ人間圏をつくって生き始めたのか? など、生物学的人間論には興味ある問いが数多く残されている。
そのすべてを議論するには紙面が十分ではなかったが、今回の対談で、少なくとも上に挙げた問いへの
答えは出せたと思っている。 なぜか知らないが現生人類には、おばあさんが生存できるという特徴と、
言語能力が格段に高いという特徴がある。この二つの特徴が、現生人類をして短期間に世界へ拡散させ、
それぞれの地域での繁栄をもたらし、一万年くらい前の環境変動に対し農耕牧畜という生き方を選択させた。
今回の対談で明らかになったように、右肩上がりを前提とし、共同幻想を抱いて生きるといういまの生き方は、
現生人類の誕生以来の生物学的特徴なのだ。
宇宙からの傭鰍的視点はこの特徴に対し、何らか有効なフィードバック作用をもたらすだろうか?
                                            (松井)
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