2003年06月30日(月)
817、「神話の力 」 −2
                早川書房
ー私の感想
この本は、私にとって過去に読んだ本の中でベスト5に入る本である。
随想日記でも何回か取り上げてきた。自分とは何かを考える時、神話に大きいヒントが隠されている。
日本のような島国の神話は「中空」思想が物語の中に隠されている。
左右に相対立するものを配置して中央に中抜きの存在を置いて、ガス抜きの役割をさせている。
今も天皇制が中空としての役割として存在しているのが面白い。

西部劇もそうだ。ある町にふらりと現れた主人公が、そこの悪役と対決して苦難の上に、
倒して英雄になり、何処かに帰っていく。これが神話のストーリーと同じである。
男は無意識のうちに英雄願望を持っており、女は誰もがシンデレラ姫コンプレックスを
持っているという。結婚して10年も経った姉が「今でもシンデレラコンプレックスある。
白馬に乗った王子様が何時か迎えに来てほしいという」と私にうちあけたことがあった。
人間なんてのはそんなものだろうが、これも無意識の中の刻印があるためだろう。
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ーレビュー
神話はわれわれに何を語ろうとしているのか。
神話が人間の精神に及ぼす見えない影響を明らかにし、
全米に神話学ブームを巻き起こしたベストセラー。
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<いま生きているという経験>
  神話は人間生活の精神的な可能性を探る鍵である。
「人々はよく生きることの意味を探していると言いますが、
人間が本当に探求しているのは<いま生きているという経験>です。」
この本は、神話学の世界的な権威であるジョーゼフ・キャンベルが、
世界各地の詩人や賢者の言葉を使い、私たちに「人生は素晴らしいことだ!」
ということを伝えてくれる。

古代の神話が失われつつある現代において、今求められている神話がどういうものか、
そしてその中で生きる私たちはどのように生きるべきかを導いてくれる本である。
宗教学や神話学に興味のない人であっても、
必ず彼の言葉には自分と共通する物語が探せるはずである。
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アメリカ東部で生まれたキャンベルは幼少時代に訪れた、
ニューヨークのスミソニアン博物館でエジプトやインド等の古代の様々な展示物に強く感銘し、
天命とでもいうべき神話の探求という彼独自の道を踏み出した。
カトリックの厳格な家庭に生まれ育った彼であったが、その枠に留まることなく、
ネイティブ・アメリカン(インディアン)の歴史、伝統と儀式に多大な興味を持ち、
研究を重ねた。そして、双方の宗教の中に、そして他の宗教にも現れる、共通の概念、
例えば処女降誕や、聖杯伝説というものを発見し、その意味を読み解いた。
アメリカの名門、コロンビア大学で学び、ヨーロッパへも留学した彼は、
神話をただ単に昔話の絵空事と考える人々の概念を大きく覆し、神話を読み解く事を通して、
神話が、現在生きている我々に生きる道しるべを提供してくれていることを証明してくれた。

彼の神話の探求は、ほぼ全世界の神話の研究に広がり、ただ机上での研究だけではなく、
現地に赴き、体験し、遠く離れた地域での神話の共通点を発見し、
神話比較学とでもいうべき新しい分野を開拓した。
また、キャンベルは、心理学者のユングとの交流により、
時代を超えた人間の普遍的な心理の探求にも、彼の仕事の領域を広げた。

そして驚くべきことに、20世紀の偉大な画家、ピカソやクレー、また、
トーマス・マンやジェームス・ジョイスという小説家、
ドイツの哲学者ショーペンハウワーというような人々の作品にまでも
彼の領域を広げている事は、前代見聞の偉業とも言える。
映画“スターウォーズ”を製作した、ジョージルーカスはキャンベルの英雄伝説の解釈を
参考にしたとも言われている。

この本は彼が他界する少しまえの彼の仕事の集大成とも言われるもので、
アメリカで有名なインタビュアーであるビル・モイヤースとの対話をテレビ放映されたものの翻訳版である。
最後にキャンベルは神話は時とともに、人々とともに変わり、作られていくもので
現在の我々の次の神話の概念は、「国境線がない宇宙からみた地球に想いを馳せ、COMPASSION(思いやり、慈悲の心)
を表現する」ものであるというメッセージを残してくれている。

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