2004年06月29日(火)
1183, ショーペンハウエルー哲学について-12

 ショーペンハウエルは、カントの思想を修正して完成をさせたドイツの哲学者で、
主著は「意志と表象としての世界」である。 (一七八八〜一八六〇)に生き、
その思想はカント・ショウペンハウエルというものをつくりあげた。
彼はあくまでカントを自分の理論の前提条件とした。その意味で彼の哲学の出発点は「カント哲学批判」だった。

「真の実在は盲目的な生存意志であるとし、個々の人間の中に意志として現れ、
盲目的意志の衝突が相継ぐ結果、苦痛に満ちた人生を送らざるを得ないという厭世哲学」を主張した。
 
 この苦痛から解脱する道は、
・芸術活動に専心して個体の意志を克服するか、
・個体はすべて同一の形而上学的本質をもつ意志であると自覚し、
 他人の苦痛への同情を根拠として倫理的に解脱するか、のどちらかであると論じた。
絶え間ない望みと恐怖を伴う欲望の渦に身をゆだねるかぎり、永遠の幸福と平和は手に入らない、と説いた。
 
 カントは、物自体の世界にやどる意志の働きによって、人間の体は「自由」な運動をすることができると主張した。
それに対して、ショーペンハウエルは、それは不可能でとして、意志の働きとそれに関する体の働きは、
本当は同じ一つの出来事が二つの側面からとれえられているいるだけと考えた。
一つは内側から経験されているもの、もう一つは外から経験されているものだ。
このことを、彼は「動機とは内側から経験される原因である」という有名な言葉でいいあらわしている。
人の倫理観の源になっているのは「同情心」であってカントが信じている理性ではないと論じた。
彼によればこの同情心こそ愛と倫理が生まれてくる基盤と考えた。
彼まで、西洋では東洋哲学は全く知られてなかった。
その東洋哲学はこの時期に西洋哲学と同じ結論に達していたのだ。これを知った彼は、この発見を書にあらわした。
 
ショーペンハウエルは、人間が閉じ込められているこの世界の地下牢からのつかの間の
解放される方法を一つだけ示している。それが芸術であった。
人は絵、劇、彫刻、とくに音楽を聴いているとき、一生逃れることができない欲望から
自分を解き放つことができるといった。
その瞬間、経験世界の外にある、異なる次元の存在に触れることができると。

 学生時代にショーウペンハウエルを知った時に何ともいえない神秘的なイメージを持った記憶が生々しい。
ワーグナーフロイトトルストイの人生の大きな影響を与えた哲学者として読んでおきたい人という想いがあった。
多くの偉大な芸術家や作家の若き日の人生の転機のきっかけをつくったのだ。
その36年後の今になって再会した神秘的な哲学者、というのが正直な気持ちである。
そのショーペンハウエルを深く知るためには、カントをいま一度読みなおす必要がある。
彼の後に登場した哲学者のニーチェも、彼の本を読んで哲学者になる決意をしたというから、
よほどの文章力があったのだろう。

 彼が幅広い分野にわたって影響があった理由として「人のおかれた状況を見通す、
 たぐいまれなる洞察力と文章家としての才能を合わせ持っていた」 からだ。
 
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