毎年、この大会を楽しみにしている。
特に、オリンピックの年のこの大会は、異常な熱気に包まれる。
日本の柔道家は、オリンピックより、この選手権に勝つことを重要視している。
今年も、準々決勝から放送されたが、どの試合も熱気に満ちた劇的な試合が続いた。
特に、準々決勝の棟田・生田戦と、井上康生と高井戦が劇的な戦いであった。
それまでの全てをかけた男同士の極限の戦いということ。
結果として、石井と鈴木の三年連続決勝戦になった。
普通の人なら、この試合は凡試合で、後味の悪い幕切れと見るだろうが、私は違う。

試合は、石井の準決勝に引き続いての後味の悪い内容だった。
相手に技をかけさせないで、焦りを誘い僅差で勝つ作戦。 21歳の若さの男の戦いではなかった。
解説者も準決勝を見ていて、これでは勝ってもオリンピック出場も微妙でしょうと、怒りを顕わにしていた。
ところが決勝も先に技ありを取った後に、反則ギリギリに逃げ回っていた。
解説者が怒り心頭に「これは全日本柔道の決勝の内容ではない!」と吐き捨てる解説。

そして石井が勝った瞬間に、涙がボロボロこぼれた。初めは嬉し泣きと思っていたが、
優勝インタビューでは、「自分の試合内容が惨めで悔しい。恥ずかしい。」
と大声を出して泣いたのである。 表彰式も、会場が白けた雰囲気であった。
全日本柔道選手権を30年来見ているが、いや他のスポーツの優勝インタビューで、大の男が
自分の試合の内容の悔し涙を出して語るのは始めてである。
元々、そういう試合をする選手だったが、自分でも解らないうちに試合の展開上、
身体が勝手に、そう動いてしまうのだ。それだけ、真剣勝負のプレッシャーの中で、
勝つという一点に気持ちが向いているのである。
特にオリンピックでは彼のような戦術が必要である。何とも印象深い大会であった。
井上康生選手については、語る必要がないだろう。 ハングリーが、背景にないと勝てないということだ。

書き終えて、気づいたことだが昨年を除いて毎年、この日本柔道選手権の総評を書いていた。
なるほど言葉に残していると、過去の自分に出会うということである。


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