? 一度だけの人生
          ―どこに根を張るかー

P−196
他人とばかり比べないで世界中に、私はたったひとりしかいないんだ、
とかけがいのない自分という存在ということを、もういちど、しっかり見出してほしい、と。
あなた方の人生は誰にも代わってもらうことはできないし、しかもそれは二度と
繰り返すことができない一度限りの人生なのだ。それが本当にわかってないと、
人生をどう生きるか、という問題は、真剣に考えていくことができない。

p−199
たとえどんな小さな仕事でも、自分が一生をかけてやりとげる、そういう人生の目的を
見出してほしい。そうして二度と戻ってこない一日一日を、そのことに打ち込んでゆく。
それは無限の希望なのである。
天才とは、努力をする人間なのである、といった人がいる。
私たちの個性というのは、何かに生涯を通して何かに打ち込んでいく、
そういう努力を通して形成されていくものなのである。
あなたは社会的に成功しなくてもよい。自分がやりたい事を、一度かぎりの
人生に打ち込んで、努力してみたらよいではないか。
そのことに10年打ち込んでみたらどうか。その道ではエキスパートになるだろう。
一流大学を出ているなど、誰も問題にはしない。
どんな小さなことでも、これが自分がしたいことを生涯を通して行えば、
世界のために何か貢献することができるのである。
それで途中で倒れることがあっても、一日一日を、そういう仕事にうちこんでいれば、
人生はそれで良いのではないだろうか。

P−202
亡くなった和辻哲郎が若いときに書いた「樹の根」というエッセーを思い出す。
「偶然再興」の中に収められ文章であるが、
「・・・ある時、砂に食い込んだ松の木の複雑な根を見守ることができた。
地上と地下姿があまりにも違っていたのである。楽しそうに葉先をそろえた針葉と、
それに比べて地下の根は。戦い、もがき、苦しみ、精一杯の努力をしつくしたように、
枝から枝と分かれて、乱れた女の髪のごとく、地上の枝幹の総量より多いと思われる
太い根、細い根を無数にもって、いっせいに大地に抱きついている。
私は、こういう根があることを知っていた。しかしそれを、目の前にまざまざと
見たときに、思わず驚異の情に打たれぬわけには行かなかった。

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「順境には枝を張れ、逆境には根を張れ」という言葉があるが、
当時、この「樹の根」のエッセーの言葉が心の支えであった。
個性とは、自分が人生をかけて打ち込んだ中でこそ生まれるもので、
むしろ逆境の中でこそ形成される。
38年ぶりに読み返してみたが、私にとって「人生を支えてくれた三冊の本」の
一冊であった。実は読み返して今、気づいた。それでは他の二冊は何か?
近々に取り上げてみようか。大本教出口王仁三郎の本と、新約聖書である。


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